この10年でファッションは本当にエシカルになった?
ファッション評価サイト「Good On You」は、10年にわたるファッションブランドの評価を振り返り、記事を掲載しました。
この10年間でファッション業界はどのように変化したのでしょうか。
もしかすると、エシカルな進歩がほとんど感じられないかもしれません。
なぜなら、ファストファッションが依然として主流で、価格は下落を続け、グリーンウォッシングはあちらこちらでみられます。
ですが、広い視野で見ると確かな進展がありました。
ファッションがエシカルになった点と、依然として深刻な懸念を抱くべき点をみていきましょう。
画像引用:https://ideasforgood.jp/glossary/rana-plaza-collapse/
労働者の安全
2013年にバングラデシュで発生したラナプラザ崩壊事故は、1,100人以上が死亡した史上最悪の産業災害の一つです。
この事故を契機に「バングラデシュ火災・建物安全協定」が締結され、後に国際協定へと拡大されました。
その後、バングラデシュとパキスタンでは66,000以上の工場が検査を受け、数百万人の労働者がより安全な環境と研修プログラムの恩恵を受けている。
低賃金などの問題は残るものの、職場の安全面では目に見える変化が生まれています。
毛皮離れとアニマルフリー
毛皮使用の減少は、ファッション業界における動物保護の最も顕著な成果の一つです。
過去10年間で、消費者の圧力、動物権利運動、代替素材の普及により動物由来素材の需要は急落しました。
英国、ノルウェー、オランダ、イタリア、オーストリアを含む22カ国以上が毛皮養殖を禁止しています。
日本では小規模ながら依然として許可されています。
グッチ、プラダ、シャネルといった高級ブランドでさえ毛皮の使用を断念しました。
その結果、ファッションのために犠牲になる動物は80%以上減少し、約1億4000万頭から2000万頭となった。
同時に動物虐待のない代替素材であるキノコ革やリンゴ革といった革新技術が成長してきています。
透明性の進展
10年前、主要ブランドのほぼ半数が、サプライチェーンのうち一次下請け先より先を追跡していないことを認めていました。
この監視の欠如が、危険な労働環境や搾取を隠してきました。
今日では、英国の現代奴隷法 (Modern Slavery Act) 、フランスの注意義務法(Duty of Vigilance Law)、新たなEU規制などの法令により、ブランドはより多くの情報開示を迫られています。
現在は、世界の大手ファッション企業の半数以上がサプライヤーリストを公開しており、多くの場合二次・三次サプライヤーまで追跡可能です。
透明性がエシカルな実践と等しいわけではありませんが、これにより不正行為を隠蔽しにくく、是正を求めやすくなっています。
リセールの台頭
ユーズドファッションはニッチから主流へと変貌を遂げました。
Depop、Vinted、The RealRealといったプラットフォームが急成長する一方、大手小売業者もリセールや買い戻し制度を導入しています。
米国だけでも、過去10年間でリセール市場は156億ドルから553億ドルに拡大し、世界のリセール市場は2029年までに3670億ドルに達すると予測されています。
衣服に第二の人生を与えるこの動きは、ファストファッションの使い捨てモデルに疑問を投げかけ、今や世界中の消費習慣を形作っています。
真の規制
政府は悪習に対抗すべく行動を起こしています。
ヨーロッパは先導役となり、フランスでは売れ残った衣類の焼却を禁止し、イタリアではSHEINのような巨大企業によるグリーンウォッシュ行為に罰金を科すなどの動きを見せています。
EUもまた、企業の説明責任、廃棄物、労働者の権利に関する広範な法律を策定中です。
米国と英国でも、サプライチェーンに関する法整備を進展させています。
執行状況にはばらつきがあるものの、規制はもはや理論上の話ではなく、ブランドの運営方法そのものを変えつつあります。
リサイクルの飛躍的な進歩
長年、ファッションのリサイクルとは古着を雑巾に再生することを意味していました。
しかし新技術がこれを変えつつあります。
スウェーデンのリニューセル(Renewcell)やフィンランドのインフィニテッド・ファイバー(Infinited Fiber)といった企業が、産業規模での繊維から繊維へのリサイクルを先導しています。
これらのプロセスは使用済み綿やポリエステルから繊維を回収し、新たな糸へと再生することで生産の循環システムを完結させます。
コストと規模は依然障壁となっていますが、ファッション業界で初めて真の循環システムが出現しつつあるのです。
消費者の意識
消費者はこれまでにないほどにファッションが与える影響を認識しています。
最近のEU調査では、70%以上の消費者がコストや入手が難しい場合でも、よりエシカルなアイテムの購入を望んでいると回答しました。
ファッション業界の世界的な大改革を目的とするファッション・レボリューションのようなムーブメントやGood On Youのようなプラットフォームがこの意識の高まりを後押ししています。
現在の課題は、サステナブルな選択肢を望ましいものにするだけでなく、誰もが手にしやすいものにすることです。
素材の転換
素材は良い方向へ少しずつ転換しつつあります。
より多くのブランドが、オーガニックコットン、再生繊維、新たな植物由来レザーをコレクションに導入しています。
ステラ・マッカートニーはキノコレザーの開発を先駆け、アディダスは海洋プラスチックを使用したシューズの試験生産を行いました。
これらの動きは生産全体から見ればまだ小規模ですが、代替素材の可能性を示し、規模拡大の兆しを見せ始めています。
これらは小さな勝利なんかではありません。
消費者が変化を求め、ブランドがプレッシャーを受けた時に、進歩が進むことを示した素晴らしい例です。
しかし、今から祝杯をあげる前に、深刻な問題が残っていることも認識する必要があります。
<残された課題>
化石燃料由来のポリエステル
ポリエステルは依然としてファッション業界で最も使用される繊維であり、世界の繊維製品の約57%を占めています。
そのほぼ全てが化石燃料由来のバージンポリエステルです。
安価で耐久性があり、大量生産が容易なため、ファストファッションはこれに依存しています。
しかし、洗濯のたびにマイクロプラスチックを放出する上に、リサイクルが困難であり、ファッションの未来を石油・ガス産業に縛り付けるものです。
繊維リサイクル技術の飛躍的進歩や大規模な代替素材が登場しない限り、ポリエステルはファッション業界の環境負荷を増大させ続けるでしょう。
ウルトラファストファッションの台頭
ファストファッションは「ウルトラファストファッション」へ進化しました。
SHEINやTemuといったブランドは、データアルゴリズムとリアルタイムデマンドに基づき、毎日数千もの新商品を投入しています。
このビジネスモデルは極端な過剰生産を生み出し、わずか数回の着用しか想定されていない衣類で市場を氾濫させているのです。
ソーシャルメディア主導のトレンドと安価なオンラインショッピングがその成長を加速させる一方、その代償は労働者、地球環境、そして増え続ける繊維廃棄物によって支払われています。
衣料品労働者と賃金
安全面での改善がされてはいますが、衣料品労働者の大半は依然として生活賃金を得られていません。
主要製造国における調査では、賃金が適切な住居・食料・医療を確保するのに必要な水準を大きく下回っていることが示されています。
例えばバングラデシュでは、2023年に設定された新たな最低賃金は月額約113ドルであるのに対し、生活賃金は推定270ドルに近いのです。
一部地域では賃金上昇も見られるもののこの格差は埋まらず、貧困レベルの賃金が業界全体で依然として常態化しています。
二酸化炭素排出量の増加
長年にわたる公約にもかかわらず、ファッション業界の二酸化炭素排出量は再び増加傾向にあります。
Apparel Impact Institute(アパレル・インパクト・インスティテュート)によると、2023年の業界排出量は7%増加し、2019年以来初の増加となりました。
理由は単純です。
総生産量の増加が排出量削減に向けた成果を上回っているためです。
生産の大幅な減速と再生可能エネルギーへの迅速な移行がなければ、ファッション業界は気候目標の達成から外れたままとなるでしょう。
この5年間、エシカルコネクションズは地球上で最もエシカルなブランドと連携することで、皆様がよりサステナブルにファッションを楽しめるように尽力してきました。
今後も、前向きな変化に注目しつつ、残された課題が真の解決を図るよう取り組んでいきます。
これからも、厳しい問いを投げかけ続け、価値観を大切にして実践するブランドを応援していきましょう。
【出典】
https://goodonyou.eco/10-years-of-good-on-you
https://cleanclothes.org/news/2023/bangladesh-minimum-wage-announcement